帰国子女の小学校編入について
帰国子女とは、保護者の事情で海外で暮らした後、日本に帰国した子供のことを指します。
文部科学省は『日本国民である学齢児童生徒が帰国した場合、その時点からその保護者には就学義務がかかることとなり、(中略)外国から帰国した学齢児童生徒の小・中学校への編入学に当たっては、原則として、その年齢に応じ、小学校、中学校又は義務教育学校の相当学年に編入学することになります。』と述べています。
例外として、義務教育の就学に必要なレベルの日本語能力が欠如している場合には、「やむを得ない事由のため、就学困難と認められる」(学校教育法第18条)に該当するため、保護者や本人の同意のもと下の学年に編入することになるでしょう。
また、小学校編入時の「帰国子女枠」は、学校によって「海外滞在年数が1年以上」など独自の条件を定めているため、子供が帰国子女枠に該当するかどうかを事前に確認しておいてください。
帰国子女の編入先【4パターン】
海外生活の期間によって、子供に合った小学校は変わってきます。帰国子女の編入先として、公立小学校・私立小学校・国立小学校・インターナショナルスクールが主な選択肢になるでしょう。
適切に選べるように、各学校の特徴やメリットデメリットを解説します。
授業料が安い「公立小学校」
公立小学校は都道府県・市区町村が運営しており、日本の小学生は一般的に自宅から一番近い公立小学校に通います。
公立小学校に編入するメリットは、授業料が安くて通いやすい点です。また、私立小学校や国立小学校と比較すると倍率が低く、編入しやすいケースが多いでしょう。ただし、公立小学校の帰国生受け入れ体制は地域によってさまざまで、ほとんど帰国子女に対するサポートがない学校もあります。
また、帰国後に居住地域の役所で住民登録を行い教育委員会に編入を申請すると、指定校が記載された入学通知書が発行されます。指定校は地域の教育委員会が定めている公立の小学校になり、自由に選ぶことはできません。
地域によっては日本語学習に関する講座を設けているところもあるため、学校や地域のサポート体制に関して、各自治体の教育委員会や小学校に問い合わせてみるのがおすすめです。
サポートが手厚い「私立小学校」
私立小学校は独自のカリキュラムにより、帰国子女に対するサポートが手厚いというメリットがあります。海外で身につけた英語スキルを活かせる授業が用意されているケースも多いでしょう。
また、私立小学校には主に二つのタイプがあり、進学先が附属中学校になる学校と中学受験をする学校があります。附属中学(附属高校)に進学する学校の場合には、大学の合格実績まで調べておくといいでしょう。中学受験が必要になる学校の場合は、子供が中学受験に向いているかどうかの判断もポイントになります。
私立小学校は帰国子女へのサポートが充実しているところが多い一方で、受験料や学費が高額になりがちな点はデメリットです。経済的に余裕がないと、私立小学校へ通うのは厳しいかもしれません。
さらに帰国子女に対応している私立小学校の倍率は高く、タイミングによっては入学困難な場合もあります。
倍率が高い「国立小学校」
国立小学校は国が運営しており、多くが「国立大学附属」で小中一貫校となっています。公立小学校と同様に学費は無料で、授業内容は大学の研究結果を反映したレベルの高い学びが期待できるのがメリットです。
しかし非常に人気が高く、入学するためには抽選で当選し、その後入学試験を受けなければならないケースもあるでしょう。
また、国立小学校の中には、帰国子女(帰国生)だけのクラスを設けて教育を実施する「特別学級方式」のカリキュラムがある学校もあります。子供の希望に合わせて検討してみるのもおすすめです。
多国籍の生徒が通う「インターナショナルスクール」
インターナショナルスクールには多国籍の子供が通うので、海外経験を活かしながら英語力を豊かに育むことのできる環境が整っています。また、国際バカロレア(IB)認定校を選べば、日本にいながら海外のカリキュラムを学ぶことも可能です。
ただし、インターナショナルスクールの多くは学校教育法第1条に定められた学校ではないため、日本の義務教育校として認められない点には注意が必要です。インターナショナルスクールの小学部を卒業しても義務教育校の中学への進学が認められないというケースもあるかもしれません。
教育委員会に相談の上、公立小学校に籍をおいて長期休学扱いとし、インターナショナルスクールへ通学させることも検討しましょう。
また、インターナショナルスクールに編入するためには、書類審査や面接(インタビュー)を実施する学校が多くあります。親子ともに英語での日常会話が問題ないレベルを求められるでしょう。
帰国子女の小学生が編入しやすい小学校
それでは、実際に帰国子女の小学生が編入しやすい小学校をピックアップしてご紹介します。
公立小学校
東山小学校:東京都目黒区
平成13年度〜17年度には、目黒区が「帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域」に指定され、東山小学校が目黒区教育委員会とともに教育活動を行いました。現在でも帰国子女・外国人児童が多いため国際的なカリキュラム教育を行っています。
編入に際しては、東山小学校の学区域内に転入し、目黒区役所等で住民登録することで、指定校が東山小学校となります。
また、2名の日本語担当教員が配置され、帰国・外国人児童の日本語指導を行っています。教科は、大半は国語ですが、算数や社会など必要に応じて「個別指導」も行っているようです。
東町小学校:東京都港区
東町小学校では、これからの国際化時代で活躍できる児童を育てるために、平成24年度より国際学級を開設しています。
港区の他の小学校と同様、国際科の授業が1年生〜6年生まで週2時間あります。東町小では、英語を母語とする児童がいたり、帰国子女の児童がいたり、当然、日本語中心の生活の児童がいたりするため、国際科における習熟度別授業を展開しています。
また、各学年10名程度を上限に外国籍児童をESC(English SupportCourse)児童として受け入れています。外国籍保護者のために、必要に応じて、英語版の学校からのおたよりも出しているようです。
私立小学校
西武学園文理小学校:埼玉県狭山市
西武学園文理小学校では「こころを育てる」・「知性を育てる」・「国際性を育てる」ことを3つの教育の柱として、「21世紀を担う、日本人としてのアイデンティティをもった、世界のトップエリート」を小中高12年一貫教育の中で養成します。
校舎内は、廊下・階段・トイレなど、至る所に英語があふれています。5年次にはイギリス短期留学、6年次にはアメリカ研修を実施しており、他国の児童と共に生活しながら英語を学び、国際人としての素養と英語力に磨きをかけています。
啓明学園初等学校:東京都昭島市
啓明学園は1940年に三井家総本家11代目三井八郎右衛門の実弟、三井高維(たかすみ)によって創立されました。東京の赤坂台町にあった私邸を開放し、海外に勤務する方の子女たちを受け入れたことが学園の始まりで、開学当初は生徒8名全員帰国子女でした。
生徒児童一人ひとりが持っている「言語」をサポートし、その成長を支えるための「マルチリンガルサポートシステム(通称:国際学級)」を提供しています。国際学級に通う 国際生には、海外からの帰国生(海外在住経験者)、国内インターナショナル校出身者、外国籍の者などが含まれます。
玉川学園小学部:東京都町田市
玉川学園小学部では、とにかくたくさんの体験をさせて、子供の学習意欲を向上させ、学力を高めることにつなげています。
一般クラスをJP(Japanese Predominant)クラス、BLESクラスをEP(English Predominant) クラスと改称して、全クラスのバイリンガル教育を推進しています。JPクラスは日本語を主体とした教科学習を行い、英語を第二言語として身に付ける英語教育です。EPクラスは英語で教科を学びますが、国語や日本の歴史、社会、文化も十分に学び、日本語の確実な習得も重視しています。
武蔵野東小学校:東京都武蔵野市
武蔵野東小学校では、健常児と特別に支援が必要な児童がともに過ごす「混合教育」を実践しており、一緒に生活をする中で、相互に影響し合い、ともに成長をしていきます。
英語の授業は、1・2年生は週1時間、3年生以上は週2時間あり、日本人の英語専科と外国人講師とによるティームティーチングも行っています。きめ細かく指導をするためにクラスを2つに分け、児童16〜18名に対して教師2名で一人ひとりの力を伸ばしていく少人数制です。
アメリカの授業で使われているリーディング教材 SRA Reading Laboratoryなどを用いて、各自のレベルに応じた内容に取り組む時間を設け、海外で身につけた英語力を生かしながら個別に学習を進める機会も用意しています。 また英検ジュニアや英検だけでなく、TOEIC Bridgeも校内で受験することができます。 武蔵野東オリジナルの英単語熟語検定[WIT(ウィット):Words and Idioms Test]も、高学年を対象に実施し、個に応じて語彙力を伸ばしています。
明星小学校:東京都府中市
明星小学校では、創立以来1953年から英語教育を行ってきた歴史から、グローバル社会で活躍できる力をつけることに重きを置き、英語教育には特に力を入れています。
また、論理的思考力や発信力、コミュニケーション力を育てる独自のカリキュラムを取り入れています。高学年になると、学級担任が国語、社会、算数などを分担して指導する教科担任制になります。一人が複数教科を教えるより、一人ひとりが研究を重ねている専門教科を教えることで深い学びが可能です。
LCA国際小学校:神奈川県相模原市
LCA国際小学校は、インターナショナルスクールとは異なり「日本人」としての教育をしっかり行った上で、英語を使いこなし国際社会で活躍できる人材を育てます。
日本人であることを大切にしながら国際人を育てる学校で、低学年では国語以外の教科はすべて外国人教師が英語で指導しています。海外の学校と雰囲気も近く、違和感なく日本での学校生活に移行し、身に付けた英語力をさらに伸ばすことができます。
また、日本語の学習に不十分なことがある場合は丁寧にそれを補いますので、帰国生には最適な環境といえるでしょう。
国立小学校
東京学芸大学附属大泉小学校:東京都練馬区
東京学芸大学は、国立大学の教員養成において基幹的役割を果たす大学です。昭和13(1938)年に開校し、昭和41(1966)年にユネスコスクールとなり、国公立の小学校としては海外帰国児童学級(ゆり組)を昭和44(1969)年に設置しました。
国際児童学級ゆり組は、海外で生活した経験のある児童に、日本の教育への適応をはかることを目的とした特設クラスです。以後40年以上の歴史があります。少人数できめ細かく、一人ひとりに指導しています。
インターナショナルスクール
アオバジャパン・インターナショナルスクール:東京都練馬区
アオバジャパン・インターナショナルスクールは、国際的に認められた教育機関として、幼稚部から大学進学までの一貫教育をマルチキャンパスにて提供しています。
学校として目指すゴールは、学びによりグローバルマインドを育み、学習者として成長し、リスクを恐れず、世界をリードする生徒を育てることです。私たちは生徒がそれぞれにあったペースや学び方で学習することを尊重しており、サポートスタッフは、教職員と協力し、アオバにおける4つのプログラム(PYP・ MYP・ DP・GLD)において、包括的な教育を提供しています。
西町インターナショナルスクール:東京都港区
創立35年の歴史の中で独自の児童英語教育をベースに、外国語として子供たちが楽しみながら効率的に学べ、しっかりと英語の基礎となる土台を定着するよう促しています。
帰国子女はネイティブの子供たちと同等の本をたくさん読み、アメリカンスクールの教材を使用しながら英語力が維持できます。限られた時間のなかで無理なく英語を保持できる事を追及し、一人ひとりの帰国生に効果的な英語保持を目的とするカリキュラムを組んでいます。
小学校の編入手続き方法は?
それでは、実際に帰国後の小学校編入手続きの方法を紹介していきます。
募集要件を確認
小学校の帰国子女枠で編入する場合は、募集要件が設けられているケースがあるので事前に確認しておきましょう。
編入に際してよくある条件には、以下のようなものがあります。
【よくある募集要件】
・国籍:日本
・海外在住期間:1年以上
・帰国後年数:1年以内
・海外在住時の学校種:海外現地校またはインターナショナルスクール(日本人学校を除く)
・日本語力:該当学年相応の読み書きができる
・通学時間:片道60分以内
小学校によって募集要件は異なるため、必ず確認しておいてください。
また、私立小学校や国立小学校では編入学試験が実施されており、試験内容には「国語・算数・作文・運動・面接」などの科目があります。希望する学校が決まったら、帰国前から編入学試験対策を進めておくといいでしょう。
必要書類
日本の小学校に編入するためには、さまざまな書類を揃えなければなりません。
海外にある日本人学校から編入する場合と、海外の現地校から編入するのとでは必要な書類が変わってきます。
以下に、学校側から求められることが多い書類をまとめたので参考にしてみてください。これら全ての書類が必要になるわけではなく、学校によって必要書類は変わってきます。
【必要書類】
・編入学願書
・住民票の写し
・海外勤務に関する証明書
・在学小学校からの転校許可書
・健康診断票
・成績通知書(これに類するもの)
・在学証明書
・教科用図書給与証明書
【日本人学校から編入する場合】
・指導要録写 (これに類する校長の証明書)
【海外現地校から編入する場合】
・日本語補習校の記録
帰国直後の時期は、さまざまな手続きで忙しいかもしれません。できれば帰国前から余裕をもって書類を準備し、不備や漏れのないように気を付けましょう。
入学手続き
ここでは、一般的な編入手続きの流れを説明します。以下に帰国後の編入手続きの流れをまとめました。
【小学校に編入する手続き】
①居住地の役所で住民登録を行う(転入の届出)
※住民登録を行わない場合は、パスポートを持参
②役所に入学通知書を発行してもらう
③小学校に必要書類を持っていく
④学校で編入学手続きをする
⑤校長先生や担任の先生と面談を行う
自治体や学校の形態によって、上記以外にも編入学試験や追加書類を求められるかもしれません。編入する小学校の先生方とコミュニケーションを取りながら手続きを進めましょう。
また、住民登録の有無によって手続き方法が異なるので、役所のホームページや窓口で確認してください。
帰国後に気を付けたいこと
帰国後に一気に環境が変わり、日本の小学校に通い始めた子供は不安やストレスを抱えやすくなります。できるだけ子供との会話をする時間をつくりましょう。
例えば、海外と日本では授業形式が異なるため授業についていけなくなったり、海外との文化の違いにカルチャーショックを受けたりすることがよくあります。
まず、海外と日本では小学校の授業形式が異なります。海外の場合、自分でわからないことを調べたり積極的に意見を述べる授業が多いです。対して日本では一斉授業が基本で、先生の話を見聞きし、教えてもらったことを正しく記憶する能力が必要になります。
また、日本の学校生活では、周りに合わせる協調性を培います。海外では個性を大事にするため、日本の小学校では服装が浮いてしまったり、自己主張が裏目にでたりするかもしれません。
全く異なる学校生活に慣れるまでには時間がかかるでしょう。友達付き合い、授業の内容、学校生活に対する心配事などをじっくり聞き、必要であれば担任の先生にも話を聞きながらサポートするのが大切です。
まとめ
帰国子女の小学校編入についてご紹介しました。
編入先の学校には、公立小学校・私立小学校・国立小学校・インターナショナルスクールと、大きく4つの選択肢があります。それぞれの学校の特徴と子供の適性から、じっくりと検討しましょう。
学校を選んだら、入学条件や必要書類についてしっかりと調べたうえで、余裕をもって準備を始めましょう。
帰国子女の子供は、海外滞在歴が長いほど日本語に対する不安を感じやすいです。昨今は各地域においても帰国子女へのサポートが手厚くなっていたり、小学校で日本語の補習授業を受けられたり、柔軟に変化してきました。
子供の様子を確認しながら、楽しい学校生活を送れるように見守ってあげましょう。
この記事の監修者プロフィール
欧米アジア語学センター編集部
ネイティブ講師を中心に、各言語100名を超える経験豊富なプロフェッショナル講師が在籍しています。 当校では、短期間で効率的に語学を習得していただく事を重視して、「わかりやすい日本語で、論理的に教える事ができる」事が講師に求められています。 特に英語以外の言語は、初めて学ぶ方が多く、習得まで与えられる時間が多くない事から必須のスキルだと考えます。また、受講者様のニーズをしっかりキャッチして、それをレッスン内容に反映する能力=コミュニケーション能力を講師に要求しています。 教授メソッドの再現性が求められる画一的・マニュアル的な大手スクールとは違う、オーダーメイドのスクールならではレッスンをご提供しております。